環境道民会議フォーラム2026|北海道環境生活部環境保全局環境政策課

『「関わりの再構築」で実現するネイチャーポジティブ」というタイトルで事例発表をしました。また、基調講演に登壇しました。

講演内容

今回は、ネイチャーポジティブを「利用」という観点からどのように進めていくかについて、私の考えをお伝えしたいと思います。

自然資源を「資産」として運用する視点

これまで自然環境については、「保護」や「保全」という言葉が長く使われてきました。その後、里山との付き合い方や外来種対策といった議論がありましたが、私は地域の自然資源を「資産」として捉え、それを「運用する」という視点が重要ではないかと考えています。自然資源の適正な利用こそが、我々の社会を支える基盤です。SDGsの概念にもあるように、自然資本があるからこそ社会が成り立ち、その上に経済や文化が築かれています。では、自然資源を「資産」として適正に運用するとはどういうことでしょうか。ポイントは以下の通りです。

  • 増えた分だけを使う
    • 魚や木材などを利用する際、成長量や増加分以上に獲ってしまうと資源は枯渇してしまいます。その年に増えた分(利息分)だけを利用すれば、元本を減らさずに持続的に恩恵を受けられます。
  • 消費できない分を外部へ輸出する
    • 自分たちで使いきれない余剰分は、外部へ提供します。
  • 浪費的利用を抑える
    • 資産運用と同じく、元本を減らすような浪費的な使い方は避けるべきです。
  • 休眠資産の活用と新たな価値創造
    • 今まで使われていなかった自然資本(休眠資産)をどう活用するか、新しい価値を見出せるかを考えます。
  • 次世代への継承
    • 自然そのものを残すだけでなく、それを守り育てる「仕組み」を次世代に残すことが重要です。

事例紹介1:広島県北広島町「芸北せどやま再生事業」

少し概念的なお話になりましたので、具体的な事例をご紹介します。
私は4年前まで、広島県の北広島町(旧芸北町)という地域に住んでいました。ここは非常に広く人口が少ない過疎地域ですが、ブナ林や湿原、草原など、豊かな自然が残っています。かつて人々は、薪や炭、木材など、山の恵み(生態系サービス)を利用して暮らしていました。しかし、エネルギー革命や生活様式の変化により山が使われなくなり、放置されるようになりました。その結果、水源涵養力の低下や獣害の増加、景観の悪化といった課題が生じました。そこで取り組んだのが「芸北せどやま再生事業」です。「せどやま(背戸山)」とは裏山、つまり里山のことです。
この事業では、住民の方々に「山から木を持ってきてください」と呼びかけました。

  • 仕組み:住民が裏山の木(主に広葉樹のナラなど)を適切に伐採し、搬出します。
  • 対価:持ち込まれた木材は、地域通貨「石(こく)」で買い取ります(1トン=6,000石など)。この通貨は町内の商店やガソリンスタンドで使えます。
  • 循環:集まった木は薪に加工・乾燥させ、薪ストーブを利用する家庭や、薪窯のパン屋、ピザ屋、温浴施設のボイラー燃料として販売します。

これにより、山が手入れされ(エコロジー)、地域経済が回り(エコノミー)、化石燃料の代替(エネルギー)にもなるという循環が生まれました。

事例紹介2:芸北茅(かや)プロジェクト

もう一つの事例は、この事業からのスピンオフである「茅プロジェクト」です。
かつて日本には、北海道と九州を合わせたくらいの面積(約1,300万ha)の草原がありました。牛馬の飼料や肥料として草が必要だったからです。しかし現在、その面積は約20万haにまで激減しています。
このプロジェクトでは、地域の人などが刈り取った茅を買い取り、集まった茅に対して地域通貨を発行します。集められた茅は、文化財や民家の茅葺き屋根の修復に使われます。実は現在、国内で使われる茅の生産地は偏っていて、大規模な産地は阿蘇、富士山麓(御殿場)、北上川河口などに限られています。北海道でも茅葺きの修復が行われていますが、その材料をわざわざ本州から運んでいるケースもあると聞きます。

北海道の可能性と次世代への継承

北海道には、かつてアイヌの方々が自然資源を利用しながら暮らしてきた歴史があり、広大な「休眠資産」が眠っています。これらを適切に利用することは、単に資源を使うだけでなく、草原や里山の環境を維持し、生物多様性を守ることにつながります。
例えば、茅場を維持することは、そこに生息する希少な動植物を守ることと同義です。自然資源を「資産」として運用し、新たな価値(教育や観光など)を創造すること。そして何より、「自然を残すための仕組み」を今から作り、次世代へ手渡していくことが、これからのネイチャーポジティブにおいて非常に重要であると考えています。

録画

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